書籍紹介
フェアユースとは、利用目的が公正であれば、著作権者の許諾なしにその著作物の利用を認める米国の著作権法の規定です。一方、日本の著作権法では、著作物を利用する際に、著作権者の許諾をとらなければならないこと(「オプトイン」)が原則です。
この結果、日本市場まで米社のサービスに制圧されてしまう現象が発生しています。たとえば、米国のグーグルなどは、著作権者が自分のホームページ検索対象を希望しなければ、検索対象から外せる(「オウトアウト」する)方法を用意し、フェアユースの規定をバックにオプトアウトしない膨大な数のホームページを検索対象にした検索エンジンを提供しました。しかし、著作権者に逐一許諾をとっていた日本製の検索エンジンは、検索対象も少なく、まさしく米国勢に「牛耳られて」しまったのです。小保方事件で脚光を浴びた論文剽窃検出サービスでも、まったく同じ現象が再現し、日本の教育・研究機関は事件発生後、一斉に米社のサービスに走りました。
オプトインを原則としている日本の著作権法は、創作文化にも影響を与えています。同人誌、コミケなどの二次創作は著作権者の許諾を得ていないケースも多いですが、それらは権利者が「お目こぼし」しているからです。フェアユースを導入すれば、権利者のお情けにすがることなく、二次創作文化を花開かせることも可能となります。
日本は、図書館・博物館などの収蔵品をデジタル化して保存する「デジタルアーカイブ化」でも、欧米に遅れを取っています。デジタルアーカイブ化する際の最大の障害が「孤児著作物」(著者の死亡などで著作権者が不明な著作物)です。欧州は孤児著作物を利用しやすくするようオプトアウトの発想を取り入れた著作権法改革で、フェアユースのある米国に対抗しています。
オプトインの原則に固執するあまりオプトアウトへの転換が遅れると、欧米がしのぎを削るデジタル覇権戦争にも取り残されてしまいます。本書は、日本の著作権法にもフェアユース導入に代表されるオプトアウトの発想への転換を提案しています。今後の日本の種々の創作文化、ひいては経済の障壁になりうる著作権法への警鐘となる一冊です。
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電子版 ¥1,600 小売希望価格(税別)
印刷版 ¥1,950 小売希望価格(税別)
発行日:2016/11/25
発行社:インプレスR&D
ページ数:256(印刷版)
ISBN:9784844397335
はじめに
第1章 イノベーションを育むフェアユース
世界最下位の日本の起業率/フェアユース規定とは など
第2章 漫画、アニメ、同人誌、コミケを守るフェアユース
TPP合意の波紋/二次創作は対象外に など
第3章 フェアユースを武器にデジタル覇権戦争を仕掛けたグーグル
デジタルアーカイブ化の壁/グーグル版「月ロケット計画」とそれに対する訴訟 など
第4章 大胆な著作権改革で応戦したヨーロッパ
ヨーロピアーナ/EU孤児著作物指令 など
第5章 押し寄せるデジタル覇権戦争の荒波
欧米のデジタル覇権戦争/世界の孤島化する日本 など
第6章 TPP、デジタル覇権戦争が迫る「攻めの著作権法」への転換
TPP著作権法改正で米国の植民地化が貫徹する著作権法/デジタルアーカイブ化に遅れをとる日本 など
エピローグ――「ロビーイング2.0」再考のすすめ
おわりに
1941年生まれ。国際大学グローバル・コミュニケーションセンター(GLOCOM)客員教授、米国弁護士(ニューヨーク州、首都ワシントン)。東京大学法学部卒業、ニューヨーク大学修士号取得(経営学・法学)。NTTアメリカ上席副社長、成蹊大学法学部教授を経て、2009年より現職。2016までは成蹊大学法科大学院非常勤講師も兼務。2015年5月~7月、サンタクララ大ロースクール客員研究員。著作権法に精通した国際IT弁護士として活躍。
おもな著書に『米国通信戦争』(日刊工業新聞社、第12回テレコム社会科学賞奨励賞受賞)、『米国通信改革法解説』(木鐸社)、『著作権法がソーシャルメディアを殺す』(PHP研究所)がある。