○まえがき

 私は、2016年4月14日から発生した熊本地震で有名になった、益城町の出身者です。高校までこの地で育ち、いまは東京で出版関係の仕事をしています。


 最初の地震(前震)で家族が被災し避難所に避難したことを知り、翌日夕方に飛行機で熊本に帰郷しました。その夜は損傷を受けながらも大丈夫と思われた実家に泊まり、「本震」を体験する羽目になってしまいました。震度6クラスの余震は覚悟して行ったのですが、まさか震度7とは。「ミイラ取りが・・・」とはこのことで、自分も被災者となってしまいました。


 本書は、私が体験した熊本地震と、その後に身に降りかかってきたことなどを書いた体験記です。あくまで一個人の体験なので、誰にでも通用する汎用的な教訓が書かれているわけではありませんし、1冊の本として多角的な取材や検証がされているわけでもありません。しかし、一人の人間が大地震に遭遇し、どういう気持ちになり、どういう行動をとったかという事例は、地震と共に生きていかなければならない日本に住む多くの方々のお役に立つのではないかと思いました。


 また本書の出版は、私が出版関係者だったこととも関係があります。私の生業は編集者で、現在は電子出版社の発行人を務めています。今回の地震では、帰郷して以降、何かのお役に立てばと思い現地情報を自分のFacebookなどで発信していました。また、ウェブ雑誌の編集長も務めていますので、その立場を借りて記事としても発行しました。この本を発行することになったのは、私のこれらのネットの記事を見て、何人かの方から「出版したら今後の役に立つのでは」というご意見をいただいたのがきっかけでした。

 確かに、出版できる立場にある者が被災経験を持ったのは稀なことでしょう。今回の経験を広く知ってもらうことは、自分の仕事だとも思いました。通常は、発行人が自分の本を自分の会社から出すことは客観性の観点からしないものですが、本書の発行主旨に鑑みご容赦いただければ幸いです。


 なお、著者印税を含めた本書による収益は、熊本地震の義援金として寄付させていただきます。熊本地震でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さまのご健康と今後の再建を心から願います。


2016年5月

井芹昌信

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